1978年、岡山県で生まれる。生まれて間もなく京都市洛西に越して来ることになり高校までを過ごす。高校を卒業すると同時に海外留学のためカナダに渡った。それまでアルバイトをして稼いだ自己資金での初めての渡航であった。
 
2000年、実家の会社の経営状態が厳しいと兄から連絡が受け、一緒に立て直すために帰国することになった。京都に戻るとすぐに仕事を学ぶため、親族が経営している岡山県の会社に出向することになる。久しぶりに訪れる岡山県は親戚も多く馴染みのある街であったが、実家のことを思うと「学び・成長」することの使命感からか、ただ貪欲に慌ただしい時間を過ごしていた。
 
岡山県では自動車ディーラーで、販売、洗車、接客など、さまざまな仕事から多くを吸収していた。そして、3年ほどが過ぎた頃、実家の会社が身売りに出されると連絡があった。がむしゃらにも、目指していたものが突然無くなることで大きな消失感に包まれた。
 
そのまま、岡山県に留まる目的もなく、京都に戻ってからは、留学していたことが影響してか、海外で仕事がしたいという情動がふつふつと湧き上がっていた。何の根拠も無いのだけれど、数年間の留学で得た英会話のスキルより、一人暮らしをしていた頃、毎日自炊をしていた「料理」という手段に可能性を感じていた。

2004年、当時はまだ数少ないスペイン料理店の中で、寺町二条にあるレストラン「La masa」を訪れる機会があった。シンプルな味付けで食材の旨味が活かされ、楽しくて賑やかな食事の光景は、これまで感じることのなかった「充実感」で満たされた。その後、その感覚を抱いたままレストランでの仕事が始まった。「La masa」では調理だけでなく、仕入れから接客、そして新店舗のマネジメントなど、すべてを経験する大切な時間となった。
 
スペイン料理に従事してから何年か経ち、スペイン北部のバスク地方で食事をする機会があった。初めてスペイン料理を知ってから10年、郷土料理を中心に食事し、調理してきた経験のお陰だろうか、目の前のモダン・スパニッシュは前衛的で実験的な料理に留まらず、郷土料理や家庭料理を根とする「拡張された料理」として僕の中で広がったことは未だに鮮明な記憶として残っている。
 
2013年、スペインのレストラン「mirador de ulía」やニューヨークのレストランでの経験も重ね、京都や日本におけるスペイン料理の一翼を担っていく覚悟とともに「acá」を開業する。